登録販売者として働く中で、高齢のお客様とのやりとりには、
“薬の知識”だけでは足りないと思う瞬間があります。
それを強く実感したのは、ある朝の接客でした。
「足が痛くてね、ロキソニンを飲んだらちょっと楽になるの。でも、ずっと飲み続けてるのはよくないでしょ?」
ある朝、納品の準備をしていたときに、ひとりの高齢女性から声をかけられました。
手には、ユンケルB12アクティブαとアリナミンメディカルゴールド。
「どっちが痛みに効くの?」と尋ねられた瞬間、私は“接客”というよりも“相談”として耳を傾ける姿勢になっていました。
登録販売者として働く中で、こうしたやりとりは日常茶飯事です。
でも、「はい、これがおすすめですよ」と、すぐに答えられる場面ばかりではありません。
薬のこと、体のこと、そして何より“気持ち”のこと——。
それらが複雑に絡み合っているのが、高齢者の方との接客だと日々感じています。
今回は、あるお客様とのやりとりを通して、
私が改めて気づいた「不安を安心に変える接客」のことをお話しさせてください。
薬の選び方よりも、もっと大切だと感じた“ある視点”についてです。
ご相談の始まり|「市販薬で何とかできない?」の声に応えて
高齢のお客様からのご相談を受けるたびに、私は身が引き締まる思いがします。
というのも、ほとんどの方が複数の持病をお持ちで、処方薬を服用されているケースが多いからです。
私は薬剤師ではないので、市販薬との飲み合わせについての判断には限界があります。
それでも、できるだけお客様の気持ちに寄り添いたい——
そんな思いから、まずはじっくりと症状や困っていることをお聞きするようにしています。
「どっちが痛みに効くの?」と聞かれた瞬間、私は相談相手になっていた
その日、開店してすぐにご来店された高齢の女性。
買い物カートを押しながら、「ちょっとすみません」と、やさしく声をかけてこられました。
足が痛くてロキソニンを飲んでいるけれど、長く続けるのは不安。
だからこそ、「できれば市販薬でなんとかならないか」と思っておられるようでした。
「いつもはね、これができないのよ」と言いながら、床のものを取る動作を実際に見せてくださったのが印象的でした。
お話をうかがうと、どうやら腰の左側からくる坐骨神経痛のような痛みで、足にしびれもあるとのこと。
手に持っていた市販薬は、どちらも鎮痛剤ではありません。
ですが、しびれの改善に期待できるメコバラミンと葉酸が含まれていることから、
私は『アリナミンメディカルゴールド』の方をおすすめしました。
実はつい先日も、似たような症状で悩まれていた高齢の男性に同じご案内をしたばかりだったんです。
するとその女性は、こんなふうに微笑まれました。
「ああ!葉酸ならブロッコリーを食べたら良さそうね。ありがとう。とりあえず考えて選んでみます」
その一言に、私はハッとしました。
“薬そのもの”よりも、“自分の中で納得できる答え”を探していたのかもしれない——
そう思った瞬間でした。
店内をまわりながら繰り返される質問に思ったこと
どちらのお薬を選ばれたのか、内心少し気になりながらも、私は納品作業へと戻りました。
するとしばらくして、日用雑貨の売り場でまた声をかけられます。
「ちょっと、すみません。床掃除の洗剤が欲しいんだけど」
さっきのお客様です。
私は住居洗剤の棚までご案内し、手荒れしにくいウタマロと、ルックの床掃除用洗剤をご紹介。
最終的にウタマロを選ばれたあと、次はビタミンCを探しているとのこと。
今度は医薬品売り場に戻って、ビタミンCをご案内しました。
「疲労にビタミンCって効くの?」と聞かれたので、
パッケージにある「肉体疲労時」の記載を見せながらご説明しました。
するとそこから、話はアリナミン、栄養ドリンクへとどんどん広がっていきます。
お話を聞いていく中でわかったのは、
✔ 足の痛みは手術でしか治せないこと
✔ ロキソニンの他にも5種類以上の薬を服用されていること
そんな背景があったんですね。
お客様は最終的に、「薬を増やすより、食べ物で栄養を摂ってみようかな」とおっしゃいました。
「ブロッコリーね、食べてみるわ」と微笑まれた表情が、今も心に残っています。
ただ、ここまでやりとりを重ねるうちに、私はある“もどかしさ”を感じはじめていました。
——伝えたいことがあるのに、はっきりとは言えない。
登録販売者という立場だからこそ生まれる、その“ジレンマ”について、次にお話しさせてください。
登録販売者として“言えないこと”と“伝えたいこと”
お店としては、市販薬をどんどんおすすめして、
お客様にたくさん買っていただけた方が、売り上げにはつながります。
たしかに、それもひとつの大切な役割かもしれません。
でも——
私は、ただ「売るための人」にはなりたくないと思っています。
綺麗事に聞こえるかもしれませんが、
私にはどうしてもそうはできない理由があります。
それは、お客様の姿が、遠くに暮らす母の姿と重なる瞬間があるからです。
私の母も、一人暮らしで、膝の痛みや体の不調をかかえて暮らしています。
電話ではあまり困りごとを言いませんが、帰省したときにふと漏らすのです。
「このサプリ、膝にいいって書いてあるけどどうなんだろう?」
通院しているのに、なかなかよくならないからこそ、
“薬じゃない何か”で少しでも楽にならないか…と考えているのが伝わってきます。
お客様もきっと、母と同じような気持ちなんだろうなと感じることが多くて、
だから私は、商品だけでなく、“安心できる言葉”も届けたいんです。
市販薬をすでに何種類も服用している方に、
「これもどうぞ」「あれも効果が期待されますよ」とは、どうしても言えませんでした。
薬には、併用によるリスクがあります。
登録販売者として、そのリスクを“知らないふり”はできません。
とはいえ、お客様が「これがいいと思ってるの」と手に取った商品を、
いきなり否定するのも違う気がして…。
「この人なら相談してよかった」って思ってもらえるように、
でも「大丈夫」と軽く安心させるようなことは言わないように。
そのバランスを、いつも頭の中でぐるぐる考えながら、言葉を選んでいます。
伝えたいのは、ただの知識じゃない。
“その人にとって、今いちばん安心できる選択肢は何か”——
それを一緒に探すことが、私の役割だと思うんです。
言いたいことを飲み込む接客には、心の揺れがつきものです。
そんな私の迷いを描いた、もうひとつの体験談はこちら👇
👉 『あんたに聞いても意味ない』にどう向き合うか|登録販売者の接客体験記
まとめ|「買ってもらう」よりも、「安心して帰ってもらう」ことを大切に
登録販売者として働く中で、
「市販薬をご案内すること」以上に大切なのは、
お客様が抱える“見えない不安”に、どこまで寄り添えるかなんじゃないかと思うようになりました。
とくに高齢のお客様は、「聞いてもらえる場所」を探しているのかもしれません。
商品知識はもちろん大事。
でも、それだけじゃ足りないと感じる場面が、少しずつ増えてきました。
私もまだまだ未熟で、毎回「これでよかったのかな…」と反省の繰り返しですが、
今日もまた誰かの「すみません」に、ちゃんと耳を傾けられる自分でいたい。
そんな気持ちで、日々接客に向き合っています。
「買っていただけたかどうか」よりも、「安心して帰ってもらえたかどうか」。
それが、今の私にとっていちばん大切なことです。
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